不正義の、かげ



自分がいつから存在するのか、自分がどうして存在するのか、わからない。
物心というものがついたときから、「守る」という役割についていた。

それが退屈だったのだと思う。
自分たち以外の者の生活に興味を持ち、自分もそんな体験をしたいと思った。
しかし、兄弟たちはそう思わなかった。

自分の考えが否定されるのはいい。
ただ、混乱や争いを生み出す原因だといって、感情を否定するのは許せなかった。
「負の感情が世界を覆い世界の危機、だから感情は抑制する」など、なにを言っているのだと思った。
ならばその調節を自分がやろう、それで状況が良くなるのならば。


人を知れば知るほど、自分の小ささがわかるのだ。
もし、人の世界に飛び込めば、自分も得られるものがあるかもしれない。
でも、自分は人じゃない力がある、みんなのところには行けない……

人間になりたい。


どれだけの時間、夢みたいなことを思い続けていただろう。
あるとき、邪念を回収する存在を知った人間たちが自分を尊敬しだした。
それはなにか違うと思った。
でもこれはチャンスかもとも思った。
そこで、力を求めた人間に言った。
「これを20年無事に育てることができたら、力を与えよう」
そして、力の無い自分、を与えたのだ。普通の生活を夢見て。

19年間は空白といっても過言ではなかった。
けれど、自分の判断の甘さが招いたこと。
それに今までの悠久の時に比べれば、ずっと、ずっと、幸せだった。

彼らの判断で「風波 飛翔」が死を迎えることになったときも恨みは無かった。
ただ、夢を見させてくれてありがとうと思った。
また使命をこなすだけの生活に戻る――寂しいけれどそれが自分の存在する意味なのだから。

そう思っていたのに。


ここはどこなんだろう。
世界がひとつではないのは知っていたけど、この世界は知らない。


いろんなひとたち。
やさしいひとたち。
ボクがなにものでもうけいれてくれるひとたち。
あたたかい。

ああ、これが、ボクのもとめていたもの。
ありがとう。
みんな、だいすき、だいすきだよ。




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